「私は魔法使いなんで。」
と祖母が言うのを小さいころからよく聞いていました。
ハリーポッター的な魔法ではないのは幼いながらにも知っていましたけど、そうやって自信満々に言っている婆ちゃんが大好きでした。
僕たちの会社㈱笏本縫製は、そんなお婆ちゃんが内職を始めたことがキッカケだったんです。
僕の祖母が縫製業に就職し、結婚を機に退職。
子育てをしながら、得意としていた縫製の仕事をしたいということから、近隣の工場からの内職加工の仕事を集め、近所の仲間たちと一緒に自宅の一部屋を加工場として仕事を始めました。
お人よしと真面目さと体力が売りだったお婆ちゃんの引き受ける仕事は、
「納期に迫られたギリギリの仕事」が多かったらしいです。
夕方に何千枚も納品されて、それを「明日の朝7:00に取りに来るからなんとかしてくれ!」
という何とも大変そうな仕事をすることは当たり前で、そんな毎日を繰り返しているうちに、
「笏本さんの所に持って行けば何とかしてくれる」
といったような噂が出来ていたようです。
それ故に、自称だけではなく、依頼主からも、
「笏本さんは魔法使いじゃで」「小人の靴屋さんじゃ」と言われていたようです。
しんどかったと思いますが、本人は「頑張ったら喜んでもらえるから」とよく言っていたそうです。
でも、早くに夫を亡くしました。
僕の生まれる1年程前、49歳ですい臓がんだったらしいです。
だから、僕はお爺ちゃんに会ったことがありません。
そこから、今までの仕事が「生きるための仕事」に変わっていったと、聞きました。
受ける仕事も増やし、朝も昼も夜も働いて、自宅の部屋も一つずつ仕事場に変わっていきました。
そのころから、母も叔母もおばあちゃんの意思を受け継ぎ、一緒に仕事をするようになりました。
だから、ぼくの幼少期のベビーベッドはダンボールの中だったんだろうと思いますね。
(だから狭い所の方が落ち着くのかな・・・)
※ダンボールに入っている写真が見当たらなかった・・
それからも、魔法使いっぷりは健在で、祖母、母共に夜遅く帰ってきたり、一旦ご飯を作って食べさせて仕事に行く、なんてことはよくあり、
妹と、「大きくなっても同じ仕事はしたくないね」なんて話していたような気がします。
ですが、世の中では、今まで国内で作っていた衣料品の製造が海外生産メインに変わっていき、
今までのような受注量は確保できず、海外とのコストの違いから国内コストもどんどん安くなっていきました。
このころ、お婆ちゃんの体に異変が起きたんです。
体調を崩し、あまり仕事が出来なくなってきたんです。
思ったように体が動かない。
「パーキンソン病」という難病でした。
結果的に、娘に世代交代をさせるような状態になりました。
怒涛の時代の流れの中で生き残りをかけて、ネクタイ縫製へと舵を切ったのもこのころです。
ネクタイ専業ではなかったことが逆に幸いし、専業工場とは少し違った視点や感性を取り入れながら作ったネクタイは、取引先からは、「こんなにきれいなネクタイは見たことない」と言って頂けるようになりました。
今はこうして書いていますが当時は美容師として仕事をしていて、実家の仕事を見ることもしていませんでした。
そんな中で、仕事を任された母の体調が悪くなり、
本業の美容師の仕事が終わった後に、仕事を手伝うようになったんです。
僕は、自分の実家の仕事は、安物を夜な夜な作っているものだと思っていました。
ところが、大人になり改めて見てみると、誰もが知っているようなメーカーの商品や、ブランドの商品がたくさんあったんです。
単純かもしれませんが、この時に自分が育った背景にあるものはこんなに凄いものだったんだと気づかされたんです。
婆ちゃんのような魔法使いにはなれないかもしれないけれど、
ちょっとでも近づいて、追い越して、
婆ちゃんが作って、母たちが土台を作り上げたものを、守って育てていくことは、
「僕」にしかできないことなんじゃないかと思ったわけです。
自分の生き方は自分で決めたらいい。
無理に家業を継ぐことは無い。
そう言われて育ってきました。
本当は継ぐ必要は無かったのかもしれません。
でも、守りたいもの、未来に繋げたいコト、育ててくれたことへの感謝が、僕を動かしました。
一緒に働いてくれる仲間も増えました。
支えてくれる仲間も増えました。
信頼してくれるお客様も増えました。
それでも、まだまだこれからなんです。
厳しい環境は変わりません。
周りを見ても、たくさんあった縫製工場はパタッと無くなりました。
衣類の全生産数の2%ちょっとしか国産じゃないって状況ですから、当然の状況ですよね。
僕たちが、想いを引き継いで、モノづくりをし通して多くの方に感動していただける仕事をしていくには、勇気を振り絞り、支えてもらいながら前に進んでいくしかありません。
婆ちゃんの魔法には勝てないかもしれないけど、婆ちゃんには出来ない方法で、
僕なりの方法で意思を未来に繋いでいきたいんです。
僕が出来る恩返しって、今を生きて未来につなぐコトしかできないように思うんです。
そんなこと?そんなことではなく、それば僕の原点です。
おばあちゃんが生きているうちに、おばあちゃんとは違った形かもしれませんが、
僕も魔法使いのような仕事ができるようになって、おばあちゃんに褒めてほしい。
正直そんな気持ちもあります。
その為にも、一人でも多くの方に感動していただけるような仕事ができるようにならないといけません。
たしかにクールビズのが浸透してきて、ネクタイをしないことも良しとされる時代になっていることは理解をしています。
「あえてネクタイをする」そんな時代になったからこそ、
芯に響く魔法のようなネクタイが創れたらいいなと思っているんです。
小さな町の小さな工場の挑戦です。
目に触れる機会も少ないでしょう。だからこそ支えてほしい。
皆さんのご支援の一つ一つが大きな力になります。
素敵なリターン品を用意して恩返しさせていただきます。
是非応援よろしくお願い致します。
https://faavo.jp/okayama/project/2547