モノには、それぞれの物語がある。|もう1度ネクタイを奥様からプレゼント。
男性(60代)のお客様からお問い合わせをいただきました。「ホームページを見て連絡をしました。ネクタイの仕立て直しなんて、お願いできるものでしょうか?」とてもやさしい声で、「御社のネクタイではなく申し訳ないし、こんなボロボロのネクタイを直してほしいなんてお願いが失礼なのも承知していますが、何とかもう1度結びたいんです」と熱望をされました。
私たちはブランドを運営している以前に、ネクタイの職人です。なかなかこういったご依頼をくださることも少ないですし、静かな口調の中にも「何とかもう一度…」という熱量を感じたので、「できる限りのことはしてみますので、一度そのネクタイをお送りください。」とお伝えしました。
その時のお話を書きます。
目次
お世辞にもキレイとは言えないネクタイが届いた。
お客様から届いたネクタイは、おそらく数年、しっかりと使ったであろうネクタイでした。お世辞にも”キレイですね”とは言えない代物。ネクタイの剣先は摩擦で毛羽立ち、一部にはうすい汚れ、軽度の日焼けのような型もついていました。この状態なら普通なら「新しいものを買い直してください」とお伝えするレベルです。
商品を見て、電話で正直に「元通りにすることはできませんよ?」とお客様にお伝えしました。すると、落胆したようなトーンで「そうですか…」と一言。なぜお客様がこのボロボロになったネクタイにこだわっているのか…。その時はわかりませんでしたが、かなり強い想い入れがあるネクタイなのだろうと感じたので、提案しました。
「綻びのある部分を切り落として、リサイズすることによって再度使っていただけるレベルのモノにできるかもしれません。大切なネクタイにハサミを入れることになりますが、いかがいたしましょうか?」
お客様の答えは即答で「はい!お願いします!」
なんとか、もう1度結んでもらえるようなネクタイができるように仕立て直しをはじめました。
・キチンと仕立てられてネクタイは、キレイにバラせる。
まずは、縫い止めている箇所をハサミで慎重に切ってバラシていきます。すぐに気づきました。「このネクタイはキチンと仕立てられたネクタイだ」と。良いモノは物持ちが良いです。それは、単に頑丈に作られているというわけではありません。ネクタイの場合、ネクタイを一本の糸で正確にセンターステッチを縫い合わせていきます。その他の部分も、しっかりと縫い付けてあることは大切なコトですが、縫い目が明確で、プロ目線で「どこを解けばキレイにバラせるか?」ということがわかりやすいものです。この仕立て直しは簡単な作業ではありませんでしたが、基本に忠実に仕立てられた良いネクタイだったのは幸いでした。丁寧にバラし、各パーツごとにアイロンを当て直し、準備は整いました。
・ほつれた部分は切り落とし、エッジは裏側に回るようにシルエットを調整する。
長年使用し、ボロが出ているネクタイの素材を元通りに復元することはできません。なので、ボロボロになって穴が開きそうになっていた大剣先の部分をギリギリのところで切り落としました。そして、裏地を再度縫い合わせました。さらに、中に入っていた毛芯もヨレヨレになっていたので、新しいモノに交換し、さらに日焼けしたサイドのエッジが裏側に回るように、シルエットを調整しました。
・可能な限りの染み抜きと、表面の毛羽取り。
小さなシミは水をつけてボカし、油汚れは専用のスプレーで見えにくくしました。摩擦により発生していた表面の毛羽立ちは、可能な限り処理しました。正直、作業を始めたときには「ほんとに大丈夫か?」という不安すらありましたが、正面から見ると全く気にならないほどのネクタイになりました。
お客様にお届けした数日後。お礼の電話。
完成したネクタイをお客様にお届けをしました。12月の中頃の発送したのですが、たまたま出張に出られているタイミングでのお届けになったため、確認いただけたのは数日後のクリスマス直前でした。届いたネクタイをご覧になられたお客様からお礼をお電話をいただきました。その時のお言葉に心がギュッとしました。
ありがとうございます。実は、去年に妻を亡くしました。このネクタイは昔、妻からクリスマスに貰ったものなんです。当時は子育ても忙しく、お金もなくてお互いに心の余裕もなく、いっぱいいっぱいだった時期でした。そんな時に「いつもありがとう」と奮発して買ってくれたネクタイだったので、何とかもう一度結びたいと思っていたんです。たまたまこの時期に仕立て直して届けていただけることになったので、妻からもう1度クリスマスプレゼントを貰えたようで、とても嬉しかったです。本当にありがとうございました。
私たちは職人です。日々、モノづくりをしていく中で手を抜くことはありません。ただ商品を”たくさんの作る中の1つ”として捉えてしまう面は、少なからずあると思います。しかし、こうしてモノを通してお客様のモノガタリがあるんだということを再認識することによって、さらに気持ちが引き締まりました。
私たちの仕事は絶対に伝わるんだという自信になった
モノヅクリの本質的な価値を再認識させてくれて、自分自身を信じても大丈夫なんだと気付かせていただきました。もしかしたら私たち職人の”こだわり”は、お客さまには伝わっていないのかもしれない。自分達が大切にしていることがお客様には必要ないことなのかもしれない。そんなコトバか入りを考えていましたが、こうしてお客様の「心」を知ることで、またこれまでの積み重ねが報われたような気がしました。
自己紹介
僕は岡山県の縫製工場の三代目として働いています。母子家庭の長男で、母から家業を継ぎました。実は「私の代で潰すから」と言われた縫製工場でしたが、継ぐ決意をしました。子どもたちには背負わせたくないという親心もあったんだと思います。だけど、戦ってきた母親の姿をみてきたからこそ、想いごと継ぎたいと思ったんです。2015年には夢だったブランドを立ち上げ、「いつか総理大臣に結んでもらえたらいいね」と話していました。途中では苦しいこともたくさんありましたしが、ただ、毎日コツコツと取り組んできたことで、2022年には総理大臣にネクタイを結んでもらうことができました。
諦めなければ夢が叶うわけではないかもしれませんが、諦めなかった人だけが夢を叶えるんだと思います。
熱い思いをもって仕事をしていますが、悩んだり、不安になったり、自信を失ったりすることもあります。ですが、A様のように私たちの積み重ねを感じてくれたり、支えてくださる方々がいることで、前に進んでいけます。何者でもない自分たちの出会いや挑戦が誰かに届き、ほんの少しでも何か変わればいいなと思います。すこしだけでいいので、僕たちのことを知ってもらえると嬉しいです。
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お客様と職人の距離を縮め喜びや感動を共有することが、私たちの原動力。
「職人としてお客様の声を聞く」私たちが大切にしていることです。ファクトリーでただ作り続ける職人ではなく、職人自身が店頭に立ち、お客様との対話やコミュニケーションを取ることで、喜びや感動を共有することができます。それは、より良いクリエイティブに影響することを知っています。
主に東京、大阪、名古屋など、都市部の一流百貨店での限定販売会を行ったり、Twitter、instagram、LINE公式アカウントを活用したコミュニケーションを大切にしています。
大量生産はしない。時間がかかっても大切に仕立てる。
SHAKUNONEのネクタイは、一本ずつ職人の手に頼って仕立てています。同じデザインのもの作り続ける方が簡単です。効率重視で生産することもできます。もしかしたら、「古くさい」と言われるやり方なのかもしれません。しかし、どれだけ時間がかかっても、新しいデザインに挑戦し、手仕事でしか出せない風合いにこだわり続けています。一部定番のデザインもありますが、「いつでも新しい発見をしてほしい」「特別な一本を届け続けたい」という想いを大切にしています。
関連情報
JAPANネクタイブランド | SHAKUNONE(しゃくのね)
小さな縫製工場から産声を上げたネクタイ専門のファクトリーブランド【SHAKUNONE(しゃくのね)】
国産のシルク生地を使用し、職人のハンドメイドにこだわり一本一本丁寧にお仕立てしております。
ブランド | SHAKUNONE'(シャクノネ) |
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